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小説・月と星の間<完>
5.過去


月と星の間 5.過去 ⑥

2014.12.26  *Edit 

「行人と離婚したから、あいつは阿部姓になった。母親の籍に移ったんだ。
行人は、すぐに愛人と籍を入れて一年後に娘が生まれた。だが行人ってヤツは、
本当にどうしようもないんだな。それから十年後、妻子を捨てて舞妓と
心中したんだよ。なんだ、ちょっと太宰みたいだな。だけど、そういう所、
あいつと似て無いか?他に好きな女ができたからと、簡単に妻を捨てる所がさ」
 下品な笑みを浮かべている父に腹が立った。
「お父さんは、そんな事を言いたくて来たの?」
「いいや、違う」
 笑いを納めて、急に真剣な顔つきになった。
「そんな事でお前が気持ちを改めてくれるなら、それに越した事は無いと
思って言っただけだ。本題はこれからだ」
 これ以上、まだ何かあるのか。
「いいか。これから先が恐ろしい話しなんだよ。行人が再婚した元愛人と
その娘だが。行人が亡くなって五年後に、母親の方が再婚したんだ。
それで苗字が変わった。向坂って苗字だったか。子連れの再婚だ。
娘の方は美大に進学して陶芸の道に進んだ。これも親の血ってわけかな。
で、この娘とあいつが出逢ってな。恋に落ちたんだよ」
「えっ?」
 この娘と恋に落ちた……。だから?
「なんか、よく分からない。どういう事?」
 問わずにいられない。
「そうだな。分からないよな。俺だって分からない。分かりたくも無い。
なんでも娘が陶芸の個展を開き、それを見に来た晴明と偶然出会い、
互いに異母兄妹とも知らずに、恋に落ちたんだそうだ。出逢ってひと目で
恋に落ちたって点は、お前たちと同じじゃないのか」
 異母兄妹と知らずに恋に落ちた。不幸な事だと蕗子は思った。だが、
何かが引っ掛かる。確か、妻がいたと言っていた。入籍はしてなかった妻が。
そして交通事故で死んだと。その妻って言うのはまさか……。
「運命のいたずらって言うんだろうな、こういうのを。まぁ、当然ながら
結婚しようって事になったようだが、その時点になって娘の母親が気がついた。
反対したが娘は聞かない。仕方が無く、阿部の叔母に掛けあった。
阿部の母親は既に亡くなっていたようだ。そうして、二人は双方の親や
親戚から猛反対を受けたが、そうされればされる程、燃え上がるのが
恋ってもんだよなぁ。だから、双方とも、止むを得ずに真実を告げたんだ。当人たちに」
「それで……?」
 蕗子は自分が震えている事に気付いた。
「呆れるのはその後さ。兄妹だったんだ。腹違いとは言え。どんなに
愛し合っていても、そうと知ったら別れるものだろう。泣く泣くであっても。
可哀想だが仕方が無い。それなのにだ。二人はな。別れ無かったんだ。駆け落ちした」
「駆け落ち……」
 そうか。別れ無かったのか。晴明らしいと思えなくもない。
「お前、分かってるのか?二人は兄妹なんだぞ?それなのに、
そうと知りながら駈け落ちし、夫婦同然に暮らしてたんだ。蓼科でな」
 蕗子は伏せていた顔を上げて、広志を見た。広志は嫌悪の表情を浮かべている。
「それで、亡くなったのね。彼女は」
 蕗子の言葉に広志は目を見張った。
「知ってたのか?」
 蕗子は頭を振る。
「入籍こそしてなかったけど、妻がいたって。そして交通事故で
亡くなったんだって事は聞いたけど、それだけ」
「そうか。それでも、それだけでもお前には話したんだな、彼女の存在を。
蘇芳はそれすら知らなかったぞ」
 今思えば、それも理解できる気がした。蘇芳は今とこれからの事しか
考えない。自分の思いをぶつけるだけで、相手の思いは汲もうとしない。
最初から愛してはいなかったのだから、話すのも無用だと思ったに違いない。
それに、忘れたかったと言っていた。
「何故お前には話したんだろうな。何か意図でもあったのか。いずれにせよ、
あまりにもモラルに欠けている。父親の比じゃないだろう。血を分けた
兄妹と分かりながら、乳繰り合うなんて畜生以下だ。ケダモノだ」
「ケダモノ?」
「ああ。人間のやる事じゃない。近親相姦なんだぞっ」
 広志の目が異様だった。まるでアブノーマルである事を喜んでいるような
興奮の様が伺える。蕗子はそんな父親の方こそ、余程おぞましいと感じた。
「蘇芳はショックを受けていたよ。当たり前だ。あんなケダモノと、
……やってたんだからな」
 そう言って、蕗子を刺すような目で見た。蕗子は胡乱げに見返した。
「なんだ、その目は。その目で見るのは俺じゃないだろう、阿部だ。
過去を隠して、更に姉妹の双方を弄んで、家族を引き裂いた。
まさに疫病神だ。死んだ娘だって、あいつと駈け落ちして蓼科なんかへ
行かなければ、死なずに済んだかもしれないんだ。その時は辛くても、
いずれ立ち直って別の男と幸せになっていたかもしれない。それを強引に
駈け落ちさせたんだろうよ、あいつが。お前にしたのと同じように」
 強引に……。その言葉が胸を刺す。強引と言えば強引だ。
君と一緒になれないくらいなら死んだ方がマシだと言っていたのを思い出した。
そうまで得たかったのか。彼女の事も。情熱的とも言えるし、
悪く言えば自己中と言えるかもしれない。
「これで分かっただろう、あいつがどんな男なのか。非常識で独善的で
思いこんだら突っ走る。モラルも周囲の目も、相手の気持ちもお構いなしだ。
そうして、心変わりをすれば簡単に掌を翻して冷淡になる。だから、
いずれお前も同じような目に遭うに違いない。それに何より、
近親相姦を平気でするような男を愛せるのか?俺は嫌だ。
絶対に認めない。悪い事は言わないから、すぐに別れるんだ」
「そんな事……、突然言われても」
「何を言ってるんだ。考えなくても分かる事だろう。大体、おぞましいと
思わないのか。身の毛がよだつだろう。血の分けた妹と平気で交わってたんだぞっ」
 蕗子は両耳を塞いだ。
「そんなに強調して言わないで」
「お前は現実から目を背けるつもりか?あいつと続けていても
不幸になるだけだ。幸い今あいつは蓼科だろう。戻って来ないうちに、
ここを引き払って家へ戻るんだ」
「えっ?」
 思いもしなかった事を言われて、蕗子は問い返した。
「ここを引き払う?」
「そうだ。当たり前だろう。蘇芳と離婚した途端、頻繁にここで逢い引き
してるそうじゃないか。同棲してないだけマシだが、全く呆れたもんだ。
お前がこんなに身持ちの悪い女だとは思って無かった。ガッカリしたよ」
 吐き捨てるように言う広志に、ガッカリしたのはこっちの方だと
言いたかったが、蕗子は口を噤んだ。
「そう言えば、ここを借りるのに財前さんが保証人になってるそうだな。
財前さんも、つい最近離婚したそうじゃないか。それも、お前が関わってるという
話を聞いたが、全くお前ってやつは。独身男より、既婚者が好きなのか。
それとも、既婚男好きするタイプなのか。我が娘ながら呆れるばかりだ」
 もう我慢できない。
「いい加減にしてっ!所長には感謝こそすれ、中傷するなんてとんでもない事よ。
一体私の何が気に入らないのか知らないけれど、幾ら娘だからって
言っていい事と悪い事があると思う。散々人を愚弄しておいて、
戻ってこいなんてとんでもない話しだわ。私は家へは二度と戻りません。
その覚悟で家を出たんだから。晴明さんとの事をどうするかは私の問題。
もう三十なんだから、親に口出しされる年じゃない」
 言っているうちに口調が激しくなってくるのを感じたが、何とかこれ以上
激さないよう我慢した。感情的になり過ぎても得はしない。
「本当にお前にはガッカリだ。親がこれだけ心配してると言うのに。
あんなケダモノが、そんなにいいのか。今回の調査結果のコピーをな。
蓼科のあいつの所へ送ったからな。自分の所業を暴露されて、
驚いてる事だろうな。もしかしたら、自分から身を引くかもしれない。
そうしてくれと祈るばかりだ」
 広志はそう言って立ち上がると、軽蔑したような目で部屋を
見まわした後に出ていった。
 蕗子は大急ぎで玄関へ行って、鍵をわざと音を立てて締めた。
そしてその場に座り込み、泣いた。
(どうして?なぜ?)
 理不尽な、やり場のない怒りと悲しみが湧いて来て、涙が込み上げて
くるのを止められない。晴明の過去、そして父の姿。どちらもショックだ。
蘇芳贔屓ではあっても、ずっと父親として尊敬していた。バリバリと働く
有能な社会人として、そして家族を守る父親として、尊敬していたのに。
人としての品格を失くしてしまったとしか思えない。
 そして晴明。こちらはただ混乱するばかりだ。異母兄妹……。近親相姦……。
そうと知らなかったうちはともかく、知っても尚、愛し合う事をやめられなかった二人。
それほど深く愛し合っていたんだろう。それなのに、彼女は死んでしまった。
彼の悲しみはいかばかりか。もう二度と、誰とも愛し合えないと思ったのも頷ける。
――でも、君と出逢ってしまった……。
 私は本当に愛されているのだろうか?そして私自身は?
 ただ悲しくて、ひたすらに泣き続ける蕗子だった。



                               6.葛藤  へつづく。。。



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