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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第2章ふれあい 第3回

2010.02.21  *Edit 

 時計を見たら18時だった。
 話に夢中になり過ぎて、かなり時間が経っている事に、
二人とも気付かずにいたのだった。
 「悪い。遅くなっちゃったな」
 「いえ、私の方こそ、話し過ぎちゃいました」
 理子は慌てて立ち上がった。
 「理子は、バスか?」
 「はい」
 「じゃぁ、一緒に帰ろう」
 「えっ?」
 増山の言葉に理子は驚いた。一緒に帰る?先生と?
 「駅まで行くんだろう?」
 「はい。そうですけど・・・」
 「なら、結局のところ、同じバスに乗る事になる」
 そう言われればそうだ。この時間帯の駅までのバスは頻繁に
出ているわけではないので、同じバスになるのも頷ける。
 「俺は一端職員室へ戻るから、お前は先に靴を履いて、
職員玄関の前で待っててくれないか」
 「わかりました」
 とは言ったものの、いいのかな。誰のアプローチに対しても
冷たい態度の先生の筈なのに、自分の方から『一緒に帰ろう』と
言ってくるとは。
 思いもかけない増山の言動に、理子の心はかき乱された。
 理子は先に教室を出ると、玄関へと急いだ。自分の方が明らかに先に
着くのはわかりきっているのに、何だか急がずにはいられない。


 職員玄関の前でドキドキしながら待っていると、5分程して
増山が出てきた。ポロシャツ姿からワイシャツにネクタイ姿に
変わっていた。その姿が、とても素敵だ。見とれそうになる。
 「悪い、待たせたな」
 増山の息が軽くあがっていた。
 「先生、着替えるの早いですね」
 「ああ。大急ぎで着替えたんだが、ネクタイ、曲がってないか?」
 そう言って、理子の方に正面を向けてきたので、ドキリとした。
ネクタイ姿の男性は普段の数倍もカッコ良く見える。
ましてや相手はイイ男だから尚更である。
 「大丈夫です」
 理子は、パッと見て答えると、すぐに前を向いて歩きだした。こんな
カッコ良い姿、じっと見ていたいけど、見ていられない。
 二人は並んでバス停まで歩いた。
 それにしても背が高い。ネクタイを見せる為に理子の正面に立った時、
理子の目線はネクタイの真ん中より少し上だった。理子の身長は
158センチなので、増山は180センチはありそうだ。
 バスは5分程でやってきた。あまり待たずに済んで良かったような
残念なような、複雑な気持ちである。バスを待っている間は、
特に二人とも喋らずにいた。辺りはまだ明るい。17時が最終
下校なので、生徒達は誰もいなかった。そうでなければ、二人で
こうして一緒に帰るなんて恐ろしくて無理だろう。必死に断ったに
違いない。だけど、駅に着いたら、誰がいるかわからないので、
バスを降りたらすぐに別れなければ。
 やってきたバスに、増山に促されて理子が先に乗った。この
時間に駅へ向かう人間は少ないようでガラガラだ。どうしようかと
理子が迷っていたら、後から乗り込んできた増山が一番後ろの
席へと歩いて行き、理子を呼んだ。
 えっ、もしかして、一緒に座るの?
 嬉しいような、困るような。
 でも、二人席じゃないから、まぁ、いいか。
 そう思って、理子が一番後ろの窓側へ腰を下ろすと、その隣に
増山はどっかりと座ったのだった。普通、こういう場合、空いている
前の席へ座るものじゃない?
 理子は仰天した。隣とは言っても、10センチ程は離れている。
微妙な距離だ。理子がそっと窺うと、増山は特に気にしている風でもなく、
平然としていた。
 私の気にし過ぎなのかも知れない。
 「明日が楽しみだな」
 増山の言葉で、増山の方を見ると、理子の方を見て笑っていた。
その笑顔がとても魅力的だ。こんな至近距離で勘弁して欲しい。
 「先生は、どうして私を『理子』って呼び捨てにするんですか?」
 「嫌か」
 「いえ、そういう意味じゃなくて、ただ単純に、どうして名前の方を
呼び捨てにするのかと思って」
 「だってみんな、お前を『理子、理子』って言ってるじゃないか」
 「同級生と先生は違うと思いますけど」
 「みんなが『理子、理子』言ってるから、うつっただけだ。
それにお前の苗字、言いにくいしな」
 「吉住、がですか」
 「みんなもそう思うから、名前で呼んでるんだろう?
『理子』って言いやすいもんな」
 それにしても・・・。
 「これでも一応、気を遣ってるんだぞ」
 「ええー?」
 一体、どう遣っていると言うのだ。
 「理子と呼ぶのは、二人の時だけにしている。みんなの
前だと、女子どもが怖そうだからな」
 理子はなんだかわからないが、赤くなった。
 『二人の時だけ』と言う部分に、反応してしまった。そこの
部分だけを考えたら、まるで特別な間柄みたいではないか。 
 いや、駄目だ。そんな事を考えては。好きになっては
いけない相手だ。もっとセーブしなければ。
 ドキドキする気持ちを抑えながら、理子はこの状況を不思議に思う。
やがてバスは駅に到着し、理子は増山に挨拶するとそそくさと
先にバスを降りたのだった。

 翌朝。
 「昨日の面談、どうだった?」
 ゆきに訊かれ、美輝に訊かれ、耕介や茂木達にと、来る度に訊かれた。
 「まぁまぁかな」
 何と答えたら良いのかわからない。諍(いさか)いから始まって、
話に花が咲き、最後は一緒に帰った、なんて誰にも言えない。
 「進学の事とか勉強の事とか、結構アドバイスされただろう?」
 と耕介が言ったので、それはとても助かったと答えた。
 「歴史へ進むか迷ってたんだけど、好きな道を行けって
言われて迷いは無くなったかな」
 「そっか。それは良かったな。理子ほど歴史が得意なら、
絶対そっちへ行くべきだよ」
 と茂木に言われた。
 「そーそー。好きな物があるなら、そっちへ進むのが一番」
 やっぱり、そういうものか。親はあまり良い顔しなさそうだけど、
先生が言うように、国文でも歴史でも就職には大差がないのなら、
好きなものの方が励めるというものだ。
 だけど先生、本当にやる気かしら?
 理子は朝からそれが気になって、読書に集中できなかった。
昨日も先生と別れてから寝るまで、個人面談からの一連の出来事を
反芻(はんすう)してしまい、勉強も読書も捗(はかど)らなかった。
 やがて始業時間になり、増山がやってきた。
 毎朝、増山が教室へ入ると、女子の間で小さな嬌声やため息が漏れる。
今朝もそれは同じだった。
 日直の号令での挨拶の後、増山はいつもの通りに出欠を取った。
理子は最後に呼ばれる。理子の名前を呼んだ時、チラッとこちらを見た。
一瞬目が合ったのだが、理子はその一瞬で、これからやるんだな、と直感した。
 理子の直感通り、増山は出席簿を閉じると、顔を上げ、眼鏡を外した。
その瞬間、物凄い嬌声が上がった。その嬌声は、初めて増山が登場した
時よりも勝っているのでは?と思うほどだった。男子は一斉に耳を塞いだ。
理子も驚いて周囲を見渡す。殆どの女子が大興奮状態だった。
 やっぱり、眼鏡よりも素顔なのかぁ。まぁ、素顔の方が色気がある感じは
するけれど。周囲で、「素顔の方がいい!」との言葉が耳に入ってくる。
 増山は暫く目の体操をしてから、眼鏡をかけた。眼鏡をかけた瞬間、
がっかりしたような声が上がった。
 「じゃぁ、ホームルームはこれで終わり」
 そう言い残して教室を出ていった。
 その後の教室は騒然とした。
 「ねぇ、見た見た?」
 みんな大興奮である。見たに決まってるだろうに。
 これは大敗である。とんでもないものを賭けて無くて良かった。
逆に自分にとっては嬉しい内容だった。それにしても、みんなの反応は凄い。
これ程までとは。
 「おい、なんなんだよー。増山が眼鏡を外しただけで、
どうしてこんなに大騒ぎになるんだぁ?」
 耕介がぼやいた。
 隣のゆきを見たら、ゆきも興奮していた。美輝は普段と
変わらずといった感じだ。
 「先生って、やっぱりカッコイイんだねー」
 とゆきに言われた。
 「私は、眼鏡の方が・・・」
 と言うと、耕介が
 「理子は眼鏡が好きなのか?」
 と訊いてきた。
 「まぁ、眼鏡好きかなぁ」
 「じゃあ、茂木はタイプなんだな?」
 なんで茂木君がここに出てくるのぉ?周囲は先生の事で
大騒ぎなのに。耕介って理解できない。
 「まぁ、茂木君はタイプかな」
 「おおっ!茂木に教えてやろう」
 「ちょ、ちょっとぉ。やめてよ」
 「なんでよ。そのくらいいいじゃんか」
 あー、耕介ってわけわからない。
 そこへ茂木がやってきた。
 「おい、茂木。理子がお前タイプだって言ってるぞ」
 「ええー?」
 あまりに急な話に茂木はひどく驚いている。
 「何だよ、いきなり・・・」
 茂木の顔が赤くなった。
 「茂木君、耕介を許してやって。私は単に眼鏡が好きなだけだから」
 「おい、なんだよー。茂木はタイプって言ったじゃないか」
 耕介がふくれた。
 「まぁタイプだけど、それだけだから。誤解されても困るでしょ」
 「話が見えない・・・」
 茂木は戸惑っていた。
 実は茂木は、理子に好意を抱いている。まだ好意の段階だ。
耕介はそれを知っているので、喜ばせてやりたかったわけなのだが。
 「悪かった」
 耕介は結局、茂木の肩を叩いて謝った。
 結局、こいつは何がしたかったんだろう?耕介の真意を知らない
理子は疑問に思うばかりだった。
 その日の放課後、合唱部の練習終了後に、理子は顧問の音楽教師の
許可を得て、準備室に残りピアノの弾き語りをしていた。家でも
できる事だが、グランドピアノでやりたいのである。
 今日は水曜日なので、隣の音楽室では吹奏楽部が練習をしていたが、
吹奏楽部の方が先に練習を終えたようで、既に静かだった。
 理子はチューリップが好きだった。古いバンドだが心に沁みて来る。
その中でも一番好きな「青春の影」をいつも最初に歌う。原曲だと
キーが少し低いので1音上げる。綺麗で心に沁みる前奏四小節を
弾き出すと、心が震えてくる。
気持ち良く歌って、その後、「心の旅」「魔法の黄色い靴」
「虹とスニーカーの頃」などを歌い、オフコースの曲に入る。
理子は小田和正ソロよりも、オフコースの方が好きだった。
全盛期の「さよなら」が一番好きだ。この曲も短い前奏が綺麗だ。
この前奏だけで、この曲の世界観全てが表現されているような気がして
ならない。この前奏を弾いているうちに、この曲の中に入り込めるので、
最初のフレーズで既に悲しい気持ちになっている。
 「さよなら」を歌い終わって余韻に浸った後に顔を上げたら、
隣の音楽室との間にあるドアが半開きになっていて、
そこに増山が笑顔で立っていた。
 「ええーっ!?」
 カーっと血が昇ってくるのがわかった。もしかして、そこで聞いてたの?
 嘘―、なんでぇ?吹奏楽は随分前に終わってたのでは?
 「お前、歌もピアノも上手いな」
 増山はそう言いながら譜面台を持って入ってきた。
 「聞いてたんですか?」
 理子はシドロモドロになりながら訊く。
 「聞いてた」
 増山は笑顔で平然と言うのだった。
 「い、いつから、ですか?」
 一体、いつからそこにいたのか?
 「確か、青春の影からかなぁ」
 げー、最初からじゃないか。
 理子はピアノに突っ伏した。恥ずかしすぎる。
 「何ショック受けてるの。上手いんだからいいじゃない」
 その言い方は妙にのんびりした調子だった。
 「理子って、声が綺麗だな。今まで気にしてなかったけど、
考えてみたら普通に話す声も綺麗だよな」
 更にカーッとなってきた。増山に言われると、物凄く心臓がドキドキしてくる。
 「ところでさぁ」
 と、増山がピアノの前にいる理子の方へ寄ってきた。
 精神衛生上良くないので、あまり近くに来て欲しくない。
 「今日の賭け。俺の圧勝だったな」
 増山が笑う。なんだか、憎たらしい。憎たらしいけど、ドキドキする。
 「そうですね。凄かったですよね、女子の反応」
 理子は顔を見ないようにして、素っ気なく答えた。
 「まぁ、俺は最初から結果はわかってたからぁ、お前が不利にな
るようなモノを賭けなかったわけだ」
 偉そうに。やっぱり癪に障る。
 「そういうわけで、昨日話した本を持って来たぞ」
 増山は紙袋をピアノの譜面台の横に置いた。
 「えっ?」
 理子は思わず顔を上げて増山を見た。さっきと変わらぬ笑顔がそこにあった。
 「これを渡す為に、合唱部の練習が終わるのを待ってたのさ。
どうやら静かになったようだから入ろうとしてドアを開けたら、
ちょうどお前が歌い出したところだった」
 そう言われて再びカーッとなる。
 「それなら、最初に声を掛けてくれれば良かったのに」
 「いや、邪魔しちゃ悪いと思って」
 ちっとも悪びれて無い。
 「黙って聞いてる方が悪いと思いますけど?」
 「そうか。じゃぁ悪かった。で、もっと聴かせてくれないかな」
 「ええーっ?やですよ、そんなの」
 「なんで」
 「なんでって、恥ずかしいじゃないですか」
 既に恥ずかしくて、穴があったら入りたい心境とはこの事だと思った。
 「恥ずかしがらなくてもいいと思うんだけどなぁ。お前、ほんとマジ上手いぞ」
 「先生、もうそれ以上言うのは止めてください」
 増山は眉根を寄せた。
 「よし。じゃぁ、セッションしよう」
 「はぁ?」
 どうして、そういう話になるんだろう?
 増山は準備室の棚に仕舞ってあるギターを出すとチューニングを始めた。
 「あの、先生?」
 「俺のギターに合わせてコード進行してくれ。歌は、お前が恥ずかしいって
言うから俺が歌う。お前は適当にハモッてくれればいい」
 ええー?どうしてこんな展開にぃ?
 「お前、チューリップが好きなんだろう。まずは、サボテンの花、でどうだ?」
 「わかりました・・・」
 仕方なく応じた。
 増山がカウントを取り、それに合わせて理子も入った。ギターの弦を
つま弾く長い指が綺麗だった。そして、増山が歌い出した時、その歌声が
あまりにも魅力的で、理子は体が熱くなった。話す声も鼻にかかったような
感じで少し低いのが魅力的なのだが、歌うとそれに艶が加わって、とても
セクシーだった。歌も上手い。この人、ミュージシャンになれば絶対
成功するだろうに、と思うほどだ。
 「先生、凄く上手い」
 終わった後、思わず口をついて出た。
 「そうかぁ?理子だって凄く上手いぞ。それに、こうして
合わせてこれるんだからイイ線いってる」
 「私なんかより、先生、音楽好きなんでしょ?そっちの道へ
行けば成功すると思うんだけどなぁ」
 「そうか。そう言って貰えるのは嬉しいが、俺は歴史の方がもっと
好きなんだ。それに、あまり騒がれるのは好きじゃないし」
 「なら、どうして今朝のような事をするんですか?あれのせいで、
ファンクラブができちゃいましたよ」
 「ええー?ほんとかよ。参ったな」
 増山は本当に困った顔をした。
 「今更困っても遅いですよ」
 そうだ。今更遅い。基本的には硬派なようだが、時々、そうやって
可笑しな事をする不思議な人だ。軽率な所があるのだろうか。
 「まぁ、できちゃったものは、しょうがないか。それで、お前は
ファンクラブに入ったのか?」
 なんか、切り替えが早い。もう、ニヤけてる。
 「なんで私が」
 「そうかぁ。それは残念だ」
 増山は眼尻の下に手をやって、涙を擦る真似をした。なんなんだ、
この人は。どうせファンクラブの女子には見向きもしないんだろうに。
相手にしてられない。
 「じゃぁ私はこれで」
 理子はそう言って立ち上がった。
 「おっ、もう帰るのか?もう数曲どうだ?」
 「いえ、もう結構です」
 「冷たいな~」
 やってらんない。この人のこういう行動を、どう理解したら良いのか
理子にはわからなかった。見かけによらず面白い人だと思う。こういう
やり取りや感覚は好きだ。だが、他の女子には冷たい人が、どうして
自分にこうした態度に出るのか、それが理解できなかった。このままで
いったら、この人の行動に一喜一憂されて振り回されそうな気がしてくる。
危険だ。
 「じゃぁ、本、お借りしますね」
 理子は平静を装って、置いてある袋を取った。
とても分厚くて重い本が入っていた。
 「うわっ、読み応えありそう」
 「そうだろう。時間かかるだろうから、急がなくていいぞ。
焦らずにじっくり読め」
 「わかりました。じゃぁ、遠慮なく」
 そう言って袋を抱えると、理子は音楽準備室を後にした。廊下に出たら、
物凄い開放感を覚えた。それだけ、中では緊張していたということか。
 帰宅後、全ての事を終えてから、増山から渡された袋を開けたら、
本と一緒にメモ紙が入っていた。

 “やっぱり、俺の勝ちだっただろう?わっはっはっは!理子は眼鏡フェチだな”

との文面の後に、眼鏡とVサインの簡単なイラストが描かれてあった。
 それを見て、理子の胸はキュンとした。

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~ Comment ~

Re: NoTitle>kouchan様 

kouchanさん♪

はっはっは!思わず爆笑してしまいました。
モデルは言わずもがなだし、メガネかけて先生ってだけで、
見た目は若きガリレオ先生ですね。

考えてみると、増山先生はkouchanより若いんですよねー^^

NoTitle 

増山先生が、ガリレオ福山にしか見えないのは気のせいでしょうか? ギターが登場した段階で既に…。
よし、続き、続き…。
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